今週の脳科学ニュース【2026年7月第2週】

今週は、脳が「見えないところで」続けている働きに、次々と光が当たった一週間でした。頭に着けるだけの脳波装置が、反応のない人のなかに残る意識を読み取り、麻酔で眠る脳はことばを聞き取り続けていました。ことばを操る脳は思ったより広く、赤ちゃんは生後3か月で音楽を感じ取っている。脳の奥で静かに交わされる情報のやりとりを、のぞいてみましょう。
🎧 頭に着けるだけの装置が、反応のない人の「意識」を読み取った

出典:Medical Xpress
イギリスのバース大学の研究チームが、頭に着けるだけの 脳波 (EEG)を使った装置で、外から見ると反応のない人のなかに残る「意識」を読み取れることを示しました。成果は『Communications Medicine』に2026年6月30日付で発表されています。
▶︎ 実験に参加したのは、17歳から73歳までの42人 です。参加者は「手を握るところを想像してください」と指示され、実際には動かなくても、その想像だけで脳波のパターンを変えられるかどうかが調べられました。
▶︎ 結果は驚くべきものでした。参加者の73.8% が、頭のなかで動きを思い浮かべるだけで、はっきりと脳の活動を変えられたのです。さらに およそ9割 が、「はい」「いいえ」を脳波で答える段階まで進みました。
▶︎ もっとも重要なのは、1回きりの検査ではなく、訓練とリアルタイムのフィードバックを重ねる 複数セッション方式 の効果です。この方法を加えると、最小意識状態を見つけられる割合が 39%から69%へ 跳ね上がりました。研究を率いた ナオミ・デュ・ボワ博士 は、くり返し順を追って評価することが、隠れた意識を見つける力を高めると話しています。
🗣️ ことばを操る脳は、思っていたよりずっと広かった

出典:Medical Xpress
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、これまで言語とは無関係と考えられてきた脳の場所にも、ことばを処理する領域が 17か所 も隠れていることを突き止めました。成果は『The Journal of Neuroscience』に発表されています(2026年6月24日付、記事公開は7月1日)。
▶︎ 研究チームは、772人分 の fMRI(機能的MRI、脳の活動を血流から見る装置)データを解析しました。すると、昔から知られる言語野だけでなく、小脳や海馬、扁桃体といった意外な場所にも、ことばに反応する領域が広がっていたのです。
▶︎ 新しく見つかった 17の領域 のうち、5か所は小脳 にありました。運動やバランスをつかさどるとされてきた小脳が、じつはことばにも関わっていたことになります。
▶︎ 言語のために使われる脳の体積は、全体の およそ5% に達すると見積もられました。筆頭著者の アガタ・ウォルナ博士 は、その大きさを「大きめのイチゴくらい」とたとえています。脳のことば地図は、教科書よりもずっと広かったのです。
🌀 脳の「運動の司令塔」は、思ったより一枚岩ではなかった

出典:ScienceDaily
バージニア工科大学のフラリン生物医学研究所の研究チームが、小脳のなかで直接つながっている2種類の細胞が、じつはバラバラに働いていることを発見しました。成果は『The Journal of Physiology』に掲載され、2026年7月1日付で紹介されています。
▶︎ これまで、小脳の表面にある プルキンエ細胞 と、その奥にある 深部核の細胞 は、しっかり手をつないで同じように動くと考えられてきました。研究を率いた マイケ・ファン・デル・ハイデン博士 は、この「当たり前」を疑ってみたのです。
▶︎ 病気のモデルで電気活動を記録すると、2つの細胞は 予想どおりには連動していませんでした。表面の細胞を見ても、奥の細胞が何をしているかはほとんど読めなかったのです。
▶︎ これは、ジストニアや 運動失調 (うまく体を動かせなくなる状態)、ふるえといった病気の治療に関わる発見です。表面の細胞だけを狙った治療が奥の細胞に思わぬ影響を与えるおそれがあると、研究チームは注意を促しています。
🌙 麻酔で眠っているあいだも、脳はことばを聞き取っていた

出典:ScienceAlert
アメリカのベイラー医科大学の研究チームが、全身麻酔で意識を失っているあいだも、脳の 海馬 (記憶をつかさどる部位)がことばをリアルタイムで処理し続けていることを明らかにしました。成果は『Nature』に2026年6月29日付で発表されています。
▶︎ 研究チームは、てんかんの手術を受ける 7人の患者 の海馬に、髪の毛より細い電極を差し込み、ひとつひとつの神経細胞の活動を記録しました。麻酔で「眠っている」あいだに、音やことばを聞かせたのです。
▶︎ すると海馬は、名詞や動詞、形容詞を仕分けし、次に来る単語まで予測しようとしていました。意識があるときにしかできないと思われていた高度な働きが、無意識のなかで静かに続いていたことになります。
▶︎ 脳は意識を失っているあいだも思っていたよりずっと活発で有能だと、研究チームは述べています。麻酔中の脳は、ただ止まっているのではなく、外の世界の音に耳を澄ませ続けていた のです。
🎵 赤ちゃんの脳は、生後3か月で音楽に反応していた

出典:Medical Xpress
イタリア技術研究所(ローマ)とウィーン大学の研究チームが、赤ちゃんの脳は 生後3か月 から音楽に反応し始めることを突き止めました。成果は『eLife』に2026年7月7日付で発表されています。
▶︎ 研究チームは、3か月・6か月・12か月の赤ちゃん79人 を対象に、体の動きをモーションキャプチャーで細かく追いました。整った音楽と、バラバラに並べ替えた音を聞かせて、脳と体の反応を比べたのです。
▶︎ 音楽に合わせて自分から体を動かす様子がはっきり現れたのは 生後12か月ごろ でした。つまり、音を「感じる」力のほうが、音に合わせて「動く」力よりも先に育つことがわかりました。
▶︎ 筆頭著者の チン・グエン博士 は、音楽は人生の最初の1年のうちに私たちの動き方を形づくり始めると話しています。リズムに合わせて正確に体を動かす力は、そのあとにゆっくり育っていくようです。
🔮 最新の脳科学は、130年前のフロイトの発想に近づいていた

出典:ScienceDaily
ノルウェーのオスロ大学の研究チームが、いまの脳科学の主流である「予測する脳」という考え方が、130年前 にフロイトが提唱した心の理論と驚くほど似ていると指摘しました。成果は『Entropy』に2026年7月1日付で発表されています。
▶︎ 「予測する脳」という考え方では、脳はつねに 次に何が起きるかを予想し、実際に入ってきた情報と照らし合わせてズレを修正していくとされます。研究チームは、この仕組みが精神分析でいう「投影」とよく似ていると言います。
▶︎ どちらの立場も、心は 安定を求めて動く ものと見ています。古びて固まった予測モデルが抜けなくなると、パラノイア(過度な疑い深さ)のような心の不調につながるのではないか、というのです。
▶︎ 脳科学は心を「生物学」として、精神分析は心を「主観的な体験」として見てきました。研究チームは、この2つの視点を組み合わせる ことで、脳のしくみと心の実感の両方を含んだ、より豊かな心の理解に近づけると考えています。
📝 まとめ
今週は、「脳のなかに隠れている働き」に光を当てる発見が目立ちました。反応のない人の意識を読み取る 脳波 (EEG)の装置、麻酔中もことばを聞き取り続ける海馬、そして思っていたより広いことばの脳の地図。外から見えるふるまいの奥では、脳がいつも静かに情報をやりとりしていることが、次々と明らかになっています。
同時に、赤ちゃんが生後3か月で音楽を感じ取るという発見や、最新の脳科学が130年前のフロイトの発想に近づいていたという指摘は、「心とは何か」という問いに新しい角度から光を当ててくれます。脳は決まりきった機械ではなく、生まれたばかりの頃から、外の世界とやりとりしながら育っていく、しなやかな存在なのだと教えてくれます。
脳のシグナルには、まだ見えていない情報がたくさんあります。 今週の発見が示すように、反応がないように見えるときも、眠っているときも、脳は絶えず情報を処理し続けています。瞑想中・集中中・リラックス中、それぞれの状態をあなた自身の脳波で記録していくことで、「ゾーンに入る瞬間」が少しずつ見えてきます。
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