今週の脳科学ニュース【2026年5月第4週】

今週は「脳は思っているより若返る」というテーマが連続した一週間でした。
日本の研究チームが作った新型ビタミンK化合物で神経細胞が再生し、鼻スプレーをたった2回吹き込むだけで老化した脳の認知機能が戻り、シロシビンの1回の体験で脳の配線そのものが1カ月後も変わったまま残る。
「老化した脳は、もう戻らない」という前提が、いくつかの方向から同時に揺らぎ始めています。
▶︎ 前回のニュースはこちら:今週の脳科学ニュース【2026年5月第1週】
🧠 日本発、新型ビタミンKで脳の神経細胞が再生。アルツハイマー・パーキンソンへ

出典:ScienceDaily
2026年5月27日、芝浦工業大学の研究チームが、自然のビタミンKよりも約3倍強く神経前駆細胞を神経細胞に分化させる新しいビタミンK化合物を開発したと『ACS Chemical Neuroscience』誌に発表しました。
責任著者は、生命科学・工学科の廣田佳久准教授と須原義智教授です。アルツハイマー病・パーキンソン病など、これまで「失われた神経は戻らない」とされてきた病気への、新しい治療の入口になる可能性があります。
▶︎ 研究チームが合成したのは、ビタミンKとレチノイン酸の構造を組み合わせたハイブリッド分子「Novel VK(ノベル ブイケー)」 です。
天然ビタミンKと比較すると、神経前駆細胞(まだ役割の決まっていない細胞)を神経細胞へと分化させる活性が約3倍に高まっていました。
▶︎ Novel VK が効く仕組みも見えてきました。mGluR1 (代謝型グルタミン酸受容体1型)と呼ばれる神経のシグナル受容体を介して効くことが確認されています。
mGluR1 は、神経細胞同士のコミュニケーションを司る重要な受容体で、アルツハイマー病・パーキンソン病ではこの経路の乱れが指摘されてきました。「ビタミンKがなぜ脳によいのか」という長年の問いに、ひとつ筋道が通った成果です。
▶︎ マウスを使った投与実験では、Novel VKが血液脳関門(脳を守るバリア)を越えて脳内に届き、天然のビタミンKよりも高い濃度で活性を保つことも示されました。
経口でも脳に届く分子であれば、薬としての実用化が一気に現実的になります。
「日本の食卓に多い納豆=ビタミンK2が脳によい」という疫学的な観察に、分子レベルの根拠が加わり始めた、と読める研究です。
🧠 鼻スプレー2回で、老いた脳が戻る。Texas A&Mが鼻から脳へ届ける新治療

出典:ScienceDaily
2026年5月26日、米 テキサスA&M大学の研究チームが、神経幹細胞由来の極小粒子「細胞外小胞(EVs)」を含む鼻スプレーを2回投与するだけで、老化マウスの脳の炎症が抑えられ、記憶と認知機能が改善したと『Journal of Extracellular Vesicles』誌に発表しました。
筆頭は アショク・シェッティ特別教授(Texas A&M Health) ら。鼻から脳へ直接届ける、まったく新しい老化対策のアプローチです。
▶︎ スプレーに含まれているのは、EVs(細胞外小胞) と呼ばれる超微小なカプセルです。
中には マイクロRNA(遺伝子発現を調整する短いRNA) が積まれており、脳の細胞に届くと NLRP3インフラマソーム や cGAS-STINGシグナルという、加齢で過剰に動きがちな炎症経路を静める働きをします。
「脳の慢性炎症(neuroinflammation)を、薬ではなく細胞由来の天然分子で抑える」という発想です。
▶︎ 実験に使われたのは、ヒトで言えば60代に相当する生後18カ月の老齢マウスでした。
スプレーをたった2回投与した群では、学習・記憶テストの成績が若いマウスと同水準まで戻り、その効果は数カ月にわたり持続しました。
オスでもメスでも一貫した効果が確認されており、性差に偏らない治療になりうる点も評価されています。
▶︎ シェッティ教授は「脳の老化は逆転できる、ということを示すデータが揃ってきている。神経に活力を取り戻させ、ミトコンドリアを再起動させる」と述べています。
研究チームはすでに特許を出願し、ヒトでの臨床試験に向けた準備を進めている段階です。実用化には数年かかりますが、点鼻スプレーで脳の老化を巻き戻すという未来は、もう絵空事ではなくなりました。
🧠 慢性神経痛は「ミトコンドリアの不足」だった。Duke大学が原因に直接アプローチ

出典:ScienceDaily
2026年5月24日、米 デューク大学医学部の研究チームが、糖尿病や抗がん剤による慢性神経痛は、神経細胞のミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)不足が原因であり、健康なミトコンドリアを補充することで痛みが約50%まで軽減すると『Nature』誌に発表しました。
筆頭は 徐静(Jing Xu)研究員、シニアオーサーは ル・ロン・ジー教授(Translational Pain Medicine Center長)。痛みを「ごまかす」ではなく、痛みの根本原因に直接介入するという発想転換です。
▶︎ これまでの慢性神経痛治療は、オピオイドや鎮痛薬で「痛みのシグナルを遮断する」のが中心でした。
今回の研究で明らかになったのは、痛んだ神経細胞は単純に「エネルギーが足りていない」状態で、ミトコンドリアの機能不全が痛みを引き起こしているという因果関係です。
▶︎ 神経のまわりにある サテライトグリア細胞 が、トンネル状の極細パイプ(tunneling nanotube)を作って、健康なミトコンドリアをまるごと神経細胞に渡していることも見つかりました。
このパイプを作る鍵となるのが MYO10 (ミオシン10)というタンパク質です。マウス実験では、ミトコンドリア輸送を増強すると痛み行動が約50%減少し、効果は 最大48時間 持続しました。
▶︎ 興味深いのは、糖尿病の人から採取したミトコンドリアでは効果が出なかったことです。
ドナー側のミトコンドリアが「健康」でなければならない点は、将来の治療設計に重要な手がかりを与えます。
ジー教授は「ダメージを受けた神経に、新しいミトコンドリアを届けるか、自分で作る力を支援することで、炎症が抑えられ治癒が進む」と述べています。糖尿病性ニューロパチー・抗がん剤による末梢神経障害に苦しむ患者にとって、薬で麻痺させない新しい治療の方向です。
🧘 瞑想による脳の変化は2分で始まり、7分でピークに達する
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出典:psypost
2026年5月22日、インドの神経科学研究機関 NIMHANS (国立精神保健・神経科学研究所) を中心とした国際共同チームが、呼吸に意識を向ける瞑想(breath-watching meditation)を始めると、わずか2〜3分で脳波が変わり始め、7分前後でピークに達すると『Mindfulness』誌に発表しました。
筆頭は マリペッディ・サケス研究員。「瞑想は何十分も続けないと意味がない」という思い込みを、ひっくり返す結果です。
▶︎ 研究チームは、128チャンネル高密度EEG(脳波計) を使い、経験ゼロから熟練者まで103人の参加者を3グループに分けて測定しました。
すると、瞑想開始から2〜3分以内にすべてのグループで脳波の変化が現れ始め、7〜10分でその変化が最も顕著になることが確認されました。
▶︎ 具体的には、シータ波(深いリラックスや内的集中の指標)、シータ・アルファ帯域、アルファ波、ベータ1波が増加し、デルタ波とガンマ1波が減少するパターンが共通して観察されました。
熟練者は安静時から シータ波が高く、デルタ波が低いという独特の脳波プロファイルを示しており、長年の瞑想が脳に**「基準値そのものを書き換える」レベルの変化**をもたらすことも示唆されました。
▶︎ サケス研究員は「EEGの変化のいくつかは、瞑想開始から約7分でピークに達するように見えた」と述べています。
変化のピークは約7分後。 これは、朝の準備の合間や、会議の前の数分でも瞑想が意味を持つことを示します。
「1日30分の瞑想時間を確保しないと…」と諦めていた人にとって、最初の7分でも脳は動くという事実は、続けるためのハードルを大きく下げてくれます。
ZONEのセッションで脳波を測ると、この「2〜3分で立ち上がり、7分でピーク」のリズムを、自分自身の脳波で確かめられます。
瞑想が脳にもたらす変化については、瞑想が脳に与える7つの変化やマインドフルネスの基礎「自己認識」でも詳しく解説しています。
🌟 1回のシロシビンで、脳の配線が1カ月変わる。「神秘体験」と脳構造の相関

出典:NIHR Imperial Biomedical Research Centre
2026年5月21日、英 インペリアル・カレッジ・ロンドンの NIHR バイオメディカル研究センターと米 UCSF (カリフォルニア大学サンフランシスコ校)の合同チームが、たった1回のシロシビン(マジックマッシュルームの活性成分)投与で、脳の白質(神経をつなぐ配線)に1カ月後も残る構造変化が起きていたと『Nature Communications』誌に発表しました。
筆頭は テイラー・ライオンズ博士、責任著者は サイケデリック研究の第一人者 ロビン・カーハート=ハリス教授 です。
▶︎ 研究では、サイケデリック未経験の健常者28人に、最初にほぼプラセボの1mg、1カ月後に強い体験を引き起こす25mgのシロシビンを投与し、前後でEEGとMRIを撮影しました。
25mg投与時、**28人中27人が「人生で最も異常な意識状態」**と評価するほど強い体験を報告しました。
▶︎ 投与後1時間以内、EEGで測られた脳のエントロピー(活動の多様さ・予測不可能さ)が劇的に高まりました。
そしてここが重要なのですが、エントロピーが大きく上がった人ほど、翌日の「洞察」報告が深く、1カ月後のウェルビーイング向上も大きかったという相関が見られました。
研究チームは「ウェルビーイング改善を駆動していたのは、洞察の体験そのものだった」と述べています。
▶︎ さらに、投与1カ月後にMRIで脳を撮影すると、前頭部と中央部をつなぐ神経線維束が、より密で、より整然と並んでいたことが確認されました。
これは「加齢や認知症で見られる脳の変化とは逆方向」のパターンです。1回の体験で、脳が「若返る方向」へ構造的に動いていたことを意味します。
▶︎ 補足として、マジックマッシュルームは日本では麻薬原料植物として違法(2002年指定、所持で7年以下の懲役)です。
一方、米国FDAは「画期的治療薬」として、オーストラリアでは2023年から治療抵抗性うつ・PTSDへの処方が認可されており、「医療用」として世界が動き出している物質です。今回の研究は、その医療応用の科学的基盤を強める位置づけになります。
▶︎ ZONEが大切にしている瞑想・呼吸・体感のアプローチは、薬を使わずに脳のエントロピーを揺らす方向へ近づこうとする実践でもあります。
「自分という感覚が溶ける」「すべてとつながっている」と呼ばれる体験は、瞑想者とサイケデリック体験者の両方が報告してきました。今回の研究は、その内側で起きていることが**「気のせい」ではなく、脳の構造を変えるレベルの出来事**だと裏づけてくれます。
🤖 中国がAI脳インプラントを臨床実用へ。米欧と並走する第3極

出典:Lifeboat News
2026年5月20日、『Nature』誌が、中国のスタートアップ各社が、AIと組み合わせた脳コンピュータインターフェース(BCI)を、試験段階から実用段階へと一気に押し上げていると報じました。
歩行・発話・デバイス操作を支援するBCIの開発で、米国(Neuralink・Synchron・Precision Neuroscience)と中国(StairMed・NeuroXess・Gestala)の二極化が鮮明になってきた、というのが今回の記事の核です。
▶︎ ここ数年で、世界のBCI企業の多くが大規模言語モデル(LLM)を脳デバイスに組み込み始めました。
脳から拾われる電気信号は曖昧でノイズも多いのですが、AIによる解釈精度が大きく向上し、「思考から発話への変換」「思考から動作への変換」が、より自然に行えるようになっています。
▶︎ 中国側で特に動きが速いのは、StairMed(階梯医療)・NeuroXess(脳虎神技) など、麻痺や ALS (筋萎縮性側索硬化症)患者を対象に臨床試験を進める企業群です。
NeuroXess は脳に薄いシートを置く低侵襲型のアプローチで、すでに患者がスマートフォン操作・LLMチャットを思考だけで行う実演を公開しています。
▶︎ 米国 Neuralink が高解像度の侵襲型を、英国 Precision Neuroscience が薄膜型を進める中、中国勢は「製造コストの低さ・症例数の積み上げの速さ」で別軸の優位を築きつつあります。
医療向けBCIは、これから 「どの方式が患者の生活に最もよく溶け込むか」 という競争に入っていきます。脳波という個人の内側のデータをどう扱うかという倫理的・社会的な議論も、これからより重要になっていきます。
📝 まとめ
今週は、「脳の老化は、もう戻らない」という前提が、いくつかの方向から同時に揺らいだ一週間でした。
日本発の新型ビタミンKによる神経再生、Texas A&Mの鼻スプレーによる老化の巻き戻し、Dukeのミトコンドリア補充による慢性神経痛の根本治療、そしてシロシビンの1回の体験で脳の白質が1カ月後も変わったまま残るという発見。
「脳は素直に変わる、しかも比較的早く」 という事実が、薬・スプレー・体験・瞑想という4つの異なる入口から、同じ方向を指し示し始めています。
脳のシグナルには、まだ見えていない情報がたくさんあります。 今週の「7分で脳波が変わる」「1回のシロシビンで脳構造が1カ月変わる」という発見が示すように、脳は私たちが思うよりずっと素早く、ずっと精密に応答しています。
瞑想中・集中中・リラックス中、それぞれの状態をあなた自身の脳波で記録していくことで、「ゾーンに入る瞬間」が少しずつ見えてきます。
自宅で簡単に脳波計測しながら瞑想。科学的に正しい瞑想で数値化・習慣化。






