ドパガキは誰のせい?無限スクロールの設計と海外のSNS規制、脳で起きていること
こんにちは。ZONEです。
「ドパガキ」 という言葉が、2026年9月に入って新聞やニュースアプリで一気に目立つようになりました。
ただ、この言葉を「若者の意志が弱い話」として読むと、いちばん大事なところを見落とします。
ショート動画やSNSを離れられない状態は、飽きさせないための設計 と、期待に反応する脳 が組み合わさって起きています。
この記事では、その組み合わせがどう働くのか、海外で始まった 未成年のSNS規制 と日本の方針はどう違うのか、そして 規制を待たずに自分の脳を確かめる方法 まで書きます。
言葉の意味や由来そのものは『"ドパガキ"とは?意味と由来、派生語まで脳科学で整理』にまとめてあります。

ドパガキは意志の問題なのか
結論から書くと、ドパガキ的な行動は「意志の強さ」だけでは説明できません。
たとえば、髪を乾かしながら動画を見る、湯船でも配信を流す、寝る直前まで短い動画を送り続ける。
どれも本人が 「やめたい」 と思いながら続けている行動です。

心理学では、こうした行動を 意志決定 よりも 「きっかけへの反射」 として扱います。
Alter(2017) は、スマホやゲームが人を離さない仕組みを 「行動嗜癖(behavioral addiction)」 の枠で整理し、やめられないのは本人の弱さではなく、製品の側に「やめどきを消す仕掛け」があるためだと指摘しました。
言い換えると、ドパガキという言葉が指しているのは 「人の性格」 というより、「人と設計の相性」 です。
飽きさせない設計は3つの部品でできている
現在の動画アプリやSNSには、共通する 3つの部品 があります。

1つ目は 無限スクロール です。
下へ送り続けるかぎり新しい投稿が現れるので、「ここで終わり」という区切りが画面上に存在しません。
2つ目は 自動再生 です。
1本が終わると、こちらが何も選ばなくても次が始まります。
「次を見るか決める」 という判断の機会そのものが、設計によって取り除かれています。
3つ目は プッシュ通知 です。
アプリを閉じたあとでも、外側から 「戻っておいで」 と声をかけ続けます。
Montag ら(2019) は、SNSやメッセージアプリ、基本無料ゲームに共通する 依存につながりやすい設計要素 を整理し、「終わりのないフィード」と「予測できない報酬」がその中心にあると指摘しました。
この3つは、どれも 「人が飽きる瞬間」 を狙って作られています。
脳の報酬系はなぜ設計に負けるのか
では、脳の側では何が起きているのでしょうか。
脳には 報酬系 と呼ばれる回路があり、ここで働く物質が ドーパミン です。
Schultz ら(1997) の研究以来、ドーパミン神経は 「ごほうびそのもの」 より 「予想より良いことが起きるかもしれない」という期待の瞬間に強く反応することがわかっています。
これを 報酬予測誤差 と呼びます。
無限スクロールは、この仕組みにぴったり合っています。

次の投稿が 「面白いかどうかわからない」 からこそ、指を動かすたびに小さな期待が生まれ、報酬系が反応し続けるのです。
実際に、Su ら(2021) は、動画アプリのおすすめ機能で選ばれた 個人向けの短い動画 を見ているときの脳を fMRI で調べました。
その結果、おすすめ動画のほうが、報酬系の中心である腹側被蓋野(VTA)が強く活動していました。
さらに、注意の切り替えに関わる回路の働きが弱まる傾向も報告されています。
「自分に合った動画だけが流れてくる」 という体験は、快適であると同時に、脳が自分でやめる力を弱める方向 にも働くということです。
手元にスマホがあるだけで注意は削られる
もうひとつ、見落とされがちな研究があります。
Ward ら(2017) は、スマホを 机の上・ポケット・別の部屋 のどこに置くかを変えて、参加者に注意力の課題を解いてもらいました。
結果は、スマホに一度も触れていなくても、机の上にあるだけで課題の成績が下がる というものでした。
研究チームはこれを 「Brain Drain(脳の流出)」 と呼んでいます。

ドパガキという言葉は 「見ている時間」 を問題にしますが、実際には「見ていない時間」の注意も、設計の側に引っ張られています。
海外では設計そのものが規制の対象になり始めた
こうした設計に対して、各国の対応は 「使い方の指導」 から 「設計と年齢の規制」 へ移り始めています。
オーストラリア では、16歳未満 のSNSアカウント作成を禁じる法律が2024年11月に成立し、2025年12月から運用が始まりました。
EU では、欧州委員会が2025年7月に 未成年保護のガイドライン を公表し、未成年向けには自動再生・無限スクロール・深夜の通知を初期設定で切るよう求めています。
ITmedia Mobile(2026-09-15)の報道によると、欧州委員会はこうした設計が利用者を 「自動操縦状態」 にすると指摘し、13歳未満のSNS利用を禁じる法整備も検討しているとされています。
同じ報道では、スペイン・ギリシャ が同様の方針を打ち出し、フランス・ノルウェー・英国 でも未成年の利用制限が議論されていると伝えられました。
一方、日本 の総務省は2026年6月の報告書案で 「一律の年齢制限は望ましくない」 という立場を示し、プラットフォーム側の保護機能と発達段階に応じた対策を重視しています。
つまり、海外は「入口を閉じる」方向、日本は「中の設計を変えさせる」方向 で進んでいます。

どちらが正しいかはまだ結論が出ていません。
ただ、はっきりしているのは、どの国も「本人の意志で何とかしなさい」とは言わなくなったこと です。
規制を待たずに自分の脳を確かめる
制度が整うまでには、まだ時間がかかります。
そのあいだにできることは、自分の脳がいまどれくらい設計に引っ張られているかを知ること です。
先にお断りしておきます。
家庭用の脳波計で、ドーパミンの量そのものを測ることはできません。
脳波でわかるのは、注意が安定しているか、休息に入れているか といった 脳のリズムの変化 です。
ただ、この変化は、ドパガキ的な状態と深く関係しています。
Wilson ら(2014) の実験では、多くの人が 「6分から15分、何もせずに座っている」 ことに強い不快を感じました。
「空白に耐えられるか」は、刺激に慣れた脳を見分けるいちばん分かりやすい指標です。

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おわりに
ドパガキという言葉は、誰かを笑うためにも、自分を責めるためにも使えます。
でも、この記事で見てきたとおり、やめられない仕組みは画面の向こう側に、かなり丁寧に作り込まれています。
相手が設計なら、こちらも 「気合い」 ではなく 「観察」 で向き合うほうが、勝ち目があります。
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主な参考文献
- Schultz, Dayan & Montague (1997) Science 275: 1593-1599 — ドーパミン神経の「報酬予測誤差」を示した原著
- Su et al. (2021) NeuroImage 237: 118136 — TikTokのおすすめ動画視聴時に腹側被蓋野と default mode network が活動することを示した fMRI 研究
- Ward et al. (2017) Journal of the Association for Consumer Research 2: 140-154 — スマホが手元にあるだけで認知資源が減る「Brain Drain」実験
- Montag et al. (2019) International Journal of Environmental Research and Public Health 16: 2612 — SNS・メッセージアプリ・基本無料ゲームに共通する依存性の高い設計要素の整理
- Wilson et al. (2014) Science 345: 75-77 — 「何もしない時間」を人がどれほど苦手とするかを示した実験
- Alter, A. (2017) Irresistible (邦訳『僕らはそれに抵抗できない』ダイヤモンド社) — 行動嗜癖と製品設計
- European Commission (2025-07-14) Guidelines on the protection of minors online under the Digital Services Act
- Australian Government, Online Safety Amendment (Social Media Minimum Age) Act 2024
- ITmedia Mobile(2026-09-15)「『一瞬の退屈も我慢できない』SNS中毒"ドパガキ"ってなんだ? その心理と、日本以外の状況」
- 日本経済新聞(2026-09-08)「刺激求める『ドパガキ』、ドラマは切り抜き視聴 退屈を嫌う時代に」
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